選手に気になる質問をしていく本コーナー。今回は4月にギラヴァンツ北九州から期限付き移籍で加入したGK志村滉に話を聞きました。
聞き手=粕川 哲男
自分が来て勝ち始めたと、
胸を張って言えるように
度胸満点。そのルーツとは
――練習を見る限り、もうすっかり溶け込んでいますね。
「そうですね(笑)。もう、見たまんまだと思います。大宮の選手はみんな優しいので、すぐに馴染むことができました。話しかけてくれる選手も多いですから」
――とはいえ、やっぱり加入早々に繰り出したという一発芸が効いたんじゃないですか。
「やっぱり、そうですねぇ。最初の入りが大事なので」
――ジュビロ磐田、水戸ホーリーホック、FC東京、ギラヴァンツ北九州と、これまでにも新加入の際は披露してきた感じですか?
「えっと……FC東京のときだけちゃんとしたミーティングで、できなかったんですよね。それ以外は、必ずやってきています」
――その度胸とセンスは、どこで培ったんですか?
「いやぁ、高校時代なんですよ(笑)。あとは、プロになってからジュビロの1年目ですね。一番やったのは。そこで手応えというか……毎週、試合の前になるとリラックスゲームがあって、負けたチームの中から監督に選ばれた一人がサポーターの前で一発芸をするっていうのがあったんです。なぜか僕だけ、勝ち負けに関係なく前座でした(笑)。あそこで鍛えられましたね」
――高校は名門・市立船橋ですね。上下関係の中で揉まれた感じですか?
「そうですね。一発芸をやる伝統はありました。いまはどうかわからないですけど、僕が1年生のときは休み時間に2年生に呼び出されるんですよ」
――そこで披露するわけですか。
「はい。最初、1年生のサッカー部員が全員呼ばれて『何かやれ』って。それって本当にひどいですよね、いま思うと。みんな恥ずかしがってたいしたことができないなか、僕だけ一発芸をして。そこでもうキャラが決まりました」
――先輩たちの反応は?
「クスって感じでした。でも、気に入ってもらって僕だけ呼ばれるという地獄が……」
――人から愛されるキャラクターなんですね。
「確かに、人に好かれるのは大事かもしれませんが、あまり意識していないというか……。でも、ムリしてやってるわけじゃないので、強みかもしれませんね」
――大宮で最初に披露した一発芸、合同取材の際は「地球系」とか言っていましたけど、「地球系」って何ですか?
「地球をテーマにしたギャグっていうか……『地球、北極、南極、赤道直下をリンボー、リンボー』ってやつなんです」
――……。
「文字にすると、伝わらないと思います(苦笑)」
――それはオリジナルですか?
「いや、オリジナルはほとんどないんですよ。すごいやっていた時期に、毎週やらなきゃいけないからYouTubeで必死に探すんですよ。で、自分が面白そうだと思ったのを選んで、それで毎回同じじゃつまらないので、また新しいのを仕入れて」
――披露したネタはエース級じゃなく、4、5番手だったとか。
「そうですね」
――どうして出したんですか(笑)。
「出ちゃったんですよ。パッと思い浮かんで(笑)。その後、誕生日を祝っていただいたときも3つくらいやったんですけど、それも5軍、6軍のやつしか浮かんでこなくて……。ちょっともったいないことをしました」
――周りの反応は?
「小笑いでしたけど、数をこなしたので手応えはあります」
――志村選手が加入した当初のチームの雰囲気は、なかなか厳しかったと思うんですけど、そのなかでよくやりましたね。
「そこは、同じ色に染まっちゃいけないので。入ってドヨ~ンじゃしょうがないので」
――強いですね。何かを変えるきっかけになったような気がします。
「自分が来て最初の試合は負けましたけど、そこから勝ちが増えてきたので、素直にうれしいです」
――練習中にも笑いがあるなど、雰囲気が少し変わりました。
「もちろん、真剣にやる部分もありますけど、そのなかでもオンとオフというか。チームは明るく楽しいほうがいい、というのが僕の考えなので」
――来た当初との変化を感じますか?
「そうですね。徐々に結果が出るようになったことが、一番大きいと思います。みんなの気持ちも明るくなってきたというか」
1対1に絶対の自信
――千葉県出身ですよね。
「生まれは一応東京の足立区で、2歳くらいから千葉です」
――バディーSC、VIVAIO船橋、市立船橋高。完全なエリートコースですね。
「そうですかぁ。中学のときは最初、幕張中の部活でやろうか迷っていて、仲の良かった幼馴染がVIVAIOを受けるっていうんで、自分も受けたら受かっちゃった感じですけどね」
――大宮で一番波長が合うのは誰ですか?
「やっぱり、まだ来て1ヶ月ちょい。ジュビロ時代に一緒にやっていた中野誠也くんとか。キャンプで同部屋だったので、そこから仲良くしてもらっています」
――同級生も多いですよね。
「そうですね。96年生まれなので、(小島)幹敏、(小野)雅史、(茂木)力也もそうだし、ヒサ(大橋尚志)もそうか。幹敏とは、水戸でも一緒にやっていたんですよ」
――さらに高校の偉大な先輩、北嶋(秀朗)コーチが。
「大先輩です。子どものころは見ていなかったですけど、市船に入った後で、キタジさんの高校時代の映像を見ました。もう、完全にレジェンドですね。すごく面白い人ですよね。明るくて、練習中もキーパー陣にまで小まめに声を掛けてくれたり、個人的にためになるアドバイスをくれたりすることもあります」
――キーパー陣は、南雄太選手が42歳、上田智輝選手が一つ上の26歳、若林学歩選手が18歳という年齢バランスですが、どんな刺激を受けていますか?
「やっぱり、雄太さんはJリーグ通算出場数で歴代2位の記録を更新したくらいなので、一緒にトレーニングできるだけで刺激になります。学歩は、その若さと勢いがすごい」
――上田選手は別メニューが多いですか?
「でも、退院してクラブハウスに来るようになってから、ちょくちょく話しています」
――あらためて、南選手のすごさは?
「単純に、あの歳になってもプレーを維持できているのがすごいし、そのなかでもまだまだ向上心があって、練習に来るのも早いし、準備もじっくり、練習後のケアもすごいので、本当に尊敬しています」
――この前、ポジションを奪われたらその先どうなるかわからないので、後輩たちに隙を見せたくないと言っていました。
「シュート練習のときとかでも、一つひとつのプレーに対する集中力がすごいんです。学歩は8歳下ですけどポテンシャルと伸びしろはすごいので、そこに負けないようやっていかないと自分もすぐに抜かれちゃうと思うので、油断はできないです」
――そんななか、志村選手のピッチ内での売りは?
「試合を通して安定感のあるプレー、ボール回しへの参加とか、ポジショニング、1対1の対応は強みにしています。あとは、足下の技術にも自信があります。高校時代からずっと1対1が好きなんです。マニアックになりますけど。相手に詰めるタイミングというか、FWとの駆け引きが得意で、1対1の状況になってもヤバイという感覚はなく、どうやって止めようかなって思っています」
――1対1で競り勝つポイントは、どのあたりですか?
「僕は、相手に詰めてシュートコースを消すパターンが多いですね。シュートが来るのを待ってバチーンと止めるのでなくて、打つまでにパパっと寄せて選択肢を減らすというか。そういったプレーが得意なので、そこを見てもらえたらと思います」
――攻撃的な守備ですね。
「そのなかでも、ただ寄せただけじゃ守れない場面がプロでは多いので、行けるけどあえて我慢して守るとか、そういう選択肢も出てきて、面白さを実感しています」
「そうですね」
――好きなキーパーとか、参考にしている選手は?
「高校を卒業してジュビロに入ったとき、同期入団だったカミンスキーは、やっぱりものすごかったです。あれは衝撃でした。練習からすごくて、試合になるともっとすごかった。それ取るのってシーンとか、触れるのって驚くようなシーンばかりでした。本当に勝敗を左右できる選手だったので、最初の頃はかなり真似しました」
――海外の映像を見ることは?
「この選手っていうのはないですけど、プレミアリーグの選手はよく見ています」
――プレミアと言えば来月、ブラジル代表でアリソン(リバプール)とエデルソン(マンチェスター・C)が来ますね。どっちが好きですか?
「アリソンかな。いやぁ、難しいけど。アリソンの方が見ていますね」
――でも、エデルソンのキックはやばくないですか?
「あれはやばいです。フィールドでプレーしても相当上手い方だと思うし、あのキックはほしいです。あと、小さいときはオリバー・カーンが好きでした」
――キーパーを見る目というか、その価値が変わってきましたよね。
「そうですね。いろいろやることも増えていますし。ゴール前でどっしり構えて守るカーンのような選手は減って、前へ出ていくキーパーとかポゼッションに関わる選手が増えた。ときには、ロングフィードでアシストまでしますからね」
――キーパーの楽しさや魅力が増しています。
「確かに、楽しさの範囲が広がった感じがして、ただ守るだけじゃなく攻撃に関与できる。そういったプレーを見て、少しでもキーパー人口が増えてくれたらと思います」
――今季は10月でリーグ戦が終了します。残された時間はそれほど多くないですが、どういったプレーでチームに貢献したいですか。
「やっぱり、チームの元気印というか。連戦になると、どうしても疲れがたまってくると思うので、まずはそこで盛り上げる。あとは常にチャンスを狙っているので、チャンスが来たときに最高のプレーができるように、毎日のトレーニングやそれ以外の時間を大事に過ごしていきたいです」
――やっぱり“とにかく明るい志村”が……。
「あっ! あははは(笑)」
――その明るさが良い運や流れを引き寄せてくれる気がしますし、チャンスはきっと来ると思います。
「ありがとうございます! 運も実力のうち。自分が来て大宮が勝ち始めたと胸を張って言えるように、今後もがんばります」
粕川哲男(かすかわ てつお)
1995年に週刊サッカーダイジェスト編集部でアルバイトを始め、2002年まで日本代表などを担当。2002年秋にフリーランスとなり、スポーツ中心のライター兼エディターをしつつ書籍の構成なども務める。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。