ボランチからシャドーへ
大宮アルディージャの一員となってから、プレーの幅をどんどんと広げてきた。
中長距離のパスをピタリと通し、守備陣の急所をえぐるスルーパスも操る天才肌のボランチというのが、柏レイソル在籍当時の茨田陽生に対する一般的な評価だった。2017年にアルディージャへ加入したのも、サイドバックで起用された前年を受けて「ボランチで勝負したい」からだった。
それがどうだろう。オレンジのユニフォームを着た彼は、加入2年目の2018シーズンにサイドハーフを主戦場とした。高木琢也監督が3バックを持ち込んだ今シーズンは、2シャドーの一角を定位置としている。
「走ることに関しては、レイソルでプレーしていたときよりも多くなりました。ツカさんが来てから、スプリントのところはキツく言われているので(笑)」
18年にスタッフ入りした「ツカさん」こと大塚慶輔フィジカルコーチの下で、スプリント能力を高めたのは間違いない。ただ、レイソルではなじみの薄かったポジションに、茨田自身が意欲的に取り組んでいるのもまた事実だ。
「2シャドーではよりゴールを意識しています。少しぐらい強引にでもシュートを打っていかないと、相手の脅威にならないしチームの特徴も生かせない。ゴールへ向かっていかなきゃいけない、と思っています」
パスの出し手から受け手になったことでの気づきもある。
「シャドーの選手がこのタイミングで走ったら、パスを出しやすいだろうなと考えながら、動き出しをするようにしています。個人的にはこの心境の中でボランチをやったらどうなんだろうな、とも思います。でも、チーム事情や自分が置かれている立場を考えて、今はシャドーでしっかりと結果を残したいと思っています」
目の前の試合に集中するだけ
シーズンはいよいよ終盤に差し掛かり、順位表から目が離せなくなってきた。昇格を争うライバルたちの結果も気になる。
「僕自身は自分たちの試合が終わるたびに、いま何位だ? とか確認することはないんです。チームメートがチェックしていたら、教えてもらうぐらいで」
結果に一喜一憂しないメンタリティーは、プロ1年目に出会ったブラジル人監督の影響を強く受けている。今シーズンも柏を率いるネルシーニョだ。
「先の試合より次の試合に向けてしっかりと準備をすることが大事だと、ネルシーニョ監督は言っていました。残り数試合になれば、自分たちの目標に対して勝点がいくつ必要なのかがはっきりしてきますけど、基本的には1試合ずつ挑んでいきたい。1試合ずつ勝ちにいくために、自分たちのプレーにどれだけ集中できるのかが大事だと思います」
前所属の柏では、国内3大タイトルを全て獲得した。プロ1年目の2010年には、J2優勝も勝ち取っている。一方で、昨シーズンはJ1参入プレーオフ敗退という悔しさを味わった。思い出すと胸が熱くなるような歓喜も、簡単にぬぐえない痛みも、茨田は経験してきた。
「残り何試合とは考えずに、次の試合に向けて全員がどれだけ準備できるか。自分も含めてJ1で戦ってきた選手たちが、声をかけたりプレーで示したりしながらやっていきたい。個人的にはJ2からプロのキャリアが始まっていますし、J1昇格も経験しているので、少しでもプレーで見せていけたらと思います」
シーズン終盤の戦いに必死なのは、昇格争いを繰り広げているチームだけではない。中位から下位も、勝点差は詰まっている。それだけに、茨田は自分たちの準備が大切になると繰り返すのだ。
「上位対決は必然的にモチベーションが上がるし、チーム全体の意識が高まる。そういう試合だけじゃなく、中位から下位のチームとの試合でもしっかり勝点3を取っていかないといけない。残り試合はホーム、アウェイに関係なく、勝点3を狙っていかなければ。どこのチームも勝点が欲しいので、無理でもゴールをこじ開けていく場面も出てくる。11人だけじゃなく、途中から出てくる選手も、そういう気持ちでプレーしないと。チーム全体として、これまで以上に結果にこだわっていく」
J2優勝も諦めていない。「自分たちが勝ち続ければ、順位が上のチームにプレッシャーを与えられる。J2優勝も自動昇格も、可能性を最後まで追い求めていきます」
そのためには、ファン・サポーターとの“共闘”が欠かせない。今年のチームスローガン『121% ORANGE』を、茨田は今こそ胸に深く刻んでいる。
「残り試合は全部勝つ気持ちで挑みます。ファン・サポーターの皆さんが信じて応援してくれることが、僕たち選手の力になります。最後まで一緒に戦ってください!」