今野さんが「ただのファン目線」で行きたい場所に行ったり、会いたい人に会うコーナーとなった本連載。今回は、クラブオフィシャルカメラマンとして長年、選手を撮影し続けている早草紀子さんにリモートでお話をうかがいました。
実は激写されていた今野さん
今野「えっと……どうも、今野です。すいません、いっつも、長年の課題なんですけど、入り方がわからず……」
早草「どこからでも来てください」
今野「出だしがわからないっていうのが恒例で。恒例にしたくないんですけど。えっと、どうも今日はありがとうございます(笑)」
早草「アハハハ。こんな感じなんですか?」
今野「そんなことないんですけどね。早草さんは、カメラマンさんですか?」
早草「そうです。チームのオフィシャルの撮影を担当しています。顔写真、プレー写真、 ホームページ、ポスターとか。ビジュアルに使う素材撮り、撮影に関しては、ほとんどやらせていただいています」
今野「ほぼすべてが早草さんの作品ですか」
早草「そうです……よね?」
クラブスタッフ「基本的には」
早草「今野さんの写真も、いっぱい撮りましたよ。イベントやったときのPK対決とか、スタンドに潜んでる姿とか」
今野「え?」
早草「この前の清水戦でしたっけ。望遠で、めっちゃ探しましたよ」
今野「俺のことを追ったんですか?」
早草「だいたいの場所しか聞いていなかったので、端からずっと……」
今野「その写真も、このコーナーに載ったんですか。何用に撮ったんだろう」
早草「何用に頼まれたんだろう?」
今野「ただただ生存確認(笑)」
早草「今日(今野さん)来てるから、ひょっとして使うかもって感じでした」
サッカーを撮り始めたきっかけは?
今野「大宮の仕事は、いつからやってらっしゃるんですか?」
早草「初めてJ1に上がった年だから2005年ですね」
今野「じゃ、18年くらいか。へ~。試合はアウェイも行くんですか」
早草「そうですね」
今野「どうして大宮で仕事することになったんですか?」
早草「それまで『サッカーダイジェスト』で写真を撮っていたんですけど、2004年に大宮の試合を撮りに行く機会が多くて、そこでチームの方に認識していただいたのかと。で、その年の10月か11月にお話をいただきました」
今野「今は大宮がメインですか?」
早草「ホームとアウェイ両方行くと、ほぼスケジュールが埋まっちゃうんです。女子もカバーしているので。だから、サッカーは大宮中心ですね」
今野「サッカー以外もなんかやってるんですか?」
早草「広告系の写真とか。ポートレイトを撮る技術は大宮でも必要なので、自分のスキルを維持するためにも、他の仕事も入れるようにしています」
今野「そもそも『サッカーダイジェスト』で仕事を始めたきっかけは?」
早草「もともと、スポーツを撮りたかったんですよね。写真学科で……。ただ、カメラも持っていなかったし、写真も撮ったことがなかった。それが、たまたまJリーグの開幕が重なって、座学も2回くらいしか受けてない段階で、アルバイトでJリーグの試合を撮る仕事が決まってしまって……」
今野「カメラもない状態で?」
早草「そこからカメラ買いに行きました。忘れもしない、ヨドバシカメラに『スポーツを撮れるカメラを売ってください』的な感じで(笑)」
今野「ヘヘヘ。じゃ、スポーツが好きだったんですね」
早草「そうですね。なんか、同じピッチレベルで、寒けりゃ寒い、暑けりゃ暑いを一緒に感じることができる仕事がしたかったんですね。凍えながら、日焼けしながら。濡れないところから、とかじゃなくて。かつ体を動かせる仕事が良かった。机の前に座って原稿を書く仕事は性に合わないというか。だけど、今は原稿を書く仕事もやらせていただいているんですけどね」
今野「失礼ですけど、そんなに日焼けしてないじゃないですか」
早草「めっちゃしてますよ! あっ、この1カ月してないんですよ。ニュージーランドで女子のワールドカップがあったので。向こうはめちゃくちゃ寒かったので」
今野「冬ですもんね」
早草「はい。ネックウォーマーして、帽子かぶって、マフラーして、ホカロンを入れて、みたいな感じで写真を撮っていました。ここ(目の部分)しか出てない生活だったので、それでたぶん。ここから追いつきます。大丈夫です」
今野「いやいや(笑)。ところで、写真のでき上がりは素人目にもわかるものですか?」
早草「う~ん、違いがあってほしいですけど……」
クラブスタッフ「全然違いますよ。僕らが撮った写真と、早草さんが撮った写真、見る人が見たら一瞬で気づくと思います」
早草「良かった良かった」
アルディージャの撮影裏話
今野「カメラマンさんの腕の良い悪いは、どこでわかるんですかね。う~ん、アングルのセンスとかがあるのかな」
早草「プロの写真にも何種類かあって、新聞の撮り方、専門誌の撮り方、オフィシャルの撮り方で違ってくると思います」
今野「ふ~ん」
早草「とくに大宮の場合は、ホームでもアウェイでも、一つの試合で全員の選手を出すので、全員の写真でフォトギャラリーを作っていて。なのでずっと同じ場所にいて、入ってくるものだけを撮ればいいってわけではないんです」
今野「なるほど~」
早草「だから、いろいろ気を遣って撮っています」
今野「全員撮ると言っても、半開きの目の写真を使うわけにはいかない」
早草「そこは頑張ってます……。だけど、試合は90分だから、全然撮れないじゃんってくじけそうになるときはあります。全然顔上げないじゃんってときとか」
今野「はいはい」
早草「でも、くじけそうになるときはいつも思うことがあって、ファン・サポーター目線になるっていうところです。その選手のファンは必ずいて、そういう方々は、推しの選手の写真が見たいわけじゃないですか。だから、諦めずに反対側まで走ってみるか……と」
今野「ははぁ~」
早草「だから、その選手の今日一番いけている姿、特長が出ている姿、喜怒哀楽の表情が分かるような写真を撮りたいと、いつも思っています」
今野「カメラをのぞいてて、選手のコンディションとかわかったりしますか?」
早草「わかります! すぐわかる。球離れが早くなったとか。いま、ナイトゲームだと、シャッターを1600分の1秒で切ってるんですね。そう考えると、だいたいわかります。早く打たないとディフェンス来ちゃうよ、とか」
今野「はいはい。じゃあ、ずっとゾーンに入ってる感じですね」
早草「めっちゃ疲れます。90分終わったあと」
ベストショットは意外な場面
今野「集中力がすごいんですね。これまでのベストショットは?」
早草「その質問、絶対来ると思った! 忘れちゃうんですよね~」
クラブスタッフ「20周年記念誌を作った際に選んでいたのは、2011年の “さいたまダービー” の、入場のときの写真ですね」
早草「あっ、それですそれ!」
今野「本当ですか(笑)」
早草「埼玉スタジアムに、すごくお客さんが入ってた試合ですよね。ダービーはやっぱりどの試合とも違う独特な雰囲気があって、選手たちの気合いがすごかった」
今野「ふ~ん」
早草「こんな表情で入ってくるんだって思ったし、これ珍しく、手を繋いでるんですよ。そんなことするチームじゃなかったのに。だから、ビックリしたんですよ」
今野「あぁ。良かったですね。ベストショットがあって(笑)。チーム状態が良いときと悪いときで、選手の表情は違いますか?」
早草「……全然違います」
今野「そりゃそうだよな(笑)」
早草「でも、苦しいときに鍛えられたスキルがあるとすれば、どんな切なくなる試合でも、そうじゃないように撮影するというか……」
今野「アハハハ」
早草「そのときのベストを尽くしているところを……」
今野「写真を使ってフォローしているわけですね」
早草「そうです。何が足りなかったんだろう、と思ってもらえるように写真を組みたいと思っています。魂を感じられる写真が一点でもあれば、見る人の救いにもなるし、我々の救いにもなるかと思って」
撮りやすい選手、撮りにくい選手
今野「なるほど。ベストイレブン言えますか?」
早草「え~、歴代のですか」
今野「カメラ映りが良かった選手でもいいんですけど」
早草「それなら言えるかも。キーパーは北野(貴之)選手が撮りやすかったかな。あと、ディフェンスラインは菊地(光将)選手とか。髭を生やしてから周りを鼓舞する姿とか、メラメラ感が撮りやすくなった。ボランチは……けっこう撮るのが難しくて、サイドのほうが、ボールを持ってドリブルするので撮りやすいですよね」
今野「ふ~ん」
早草「撮りにくさで言ったら、家長(昭博)選手は撮りにくかった。軸がブレないから。カッコいい写真って、体勢が崩れて動きが出ているような写真だと思うんですけど、彼は軸が一切ブレず、常にストレート。姿勢が良すぎて撮りにくかった」
今野「うんうん。押されても、まったく動かないですもんね」
早草「そうなんですよ。常に自分のベストな状態を保ってプレーできる選手だったので、その点は苦労した記憶があります」
今野「撮りやすかったドリブラーは?」
早草「これはフォトジェニックだと思ったのは、土岐田(洸平)選手。泥臭いと言うか、闘志が伝わってくるようなドリブルでした」
今野「ふ~ん。あの~、お時間です」
早草「私も、すごい気になってました(笑)」
今野「ベストイレブンを聞くタイミングを誤ったかもしれないですね」
早草「私も全然出なくて、すみません」
今野「いやいや、全然。何か言い残したことは?」
早草「いや、大丈夫だと思います」
今野「では、お体に気をつけて、頑張ってください」
早草「暑さに慣れてからスタジアムに行こうと思います」
今野「確かにね。急激な変化ですもんね。ありがとうございました」
早草「えっ、待って。大丈夫ですか?」
今野「いつもどおりです」
早草「いざとなったら、写真バンバン入れてください」
今野「いや、全然良かったですよ」
早草「ホントですか? 今日はありがとうございました!」