今野さんが「ただのファン目線」で行きたい場所に行ったり、会いたい人に会う本連載。今回は氷川神社に赴き、権禰宜の遠藤さんに境内を案内していただきながら、お話を伺いました。その模様を、前後編に分けてお送りします。
鳥居をくぐるときは真ん中でもいい?
今野「今日はよろしくお願いします。今野です」
遠藤「遠藤です。じゃ、行きましょうか」
今野「(その格好で)大丈夫ですか?」
遠藤「いや……私も(素肌の見える今野さんの足下を見ながら)、気になっちゃって」
今野「寒くありません?」
遠藤「これ、思うほど寒くないんですよ。夏は涼しいですし」
今野「夏冬、同じ格好なんですか?」
遠藤「生地が違いますけどね」
今野「ほぉう」
遠藤「今はヒートテックとか、いろいろありますから」
今野「昔はもっと大変だったでしょうね」
遠藤「そうですね」
今野「ここ(三の鳥居)からの紹介でいいのかな。(ニの鳥居まで)行くのは大変か」
遠藤「併せてご説明します」
今野「鳥居を潜るときの作法はあるんですか?」
遠藤「まずは帽子を取って、一礼ですね」
今野「参道の真ん中を歩くのはやめろみたいな話も聞きますけど」
遠藤「わたしども、そんなには気にしてないんですよ」
今野「そうですか」
遠藤「神様が通るからだって人もいますけどね。お祭りのときとか、神主も真ん中を堂々と歩いていきますからね」
今野「誰が言い出したんですか?」
遠藤「やっぱり、真ん中は正中と言って一番いい場所ですからね。あとは、参拝する方が多いので、左右に分かれたほうが」
今野「神様、そんなことで怒らないだろうとも思いますし」
遠藤「怒りません(笑)。タブーじゃないですから。ただ、神様に向かって左側が下位、右側が上位になるので、控えめに左側を行くのが正解かもしれません」
今野「舞台の上手、下手のような感じですか?」
遠藤「そうです」
今野「入口で、ここまで長く話すとは思わなかった(笑)」
遠藤「今野さんの質問がうまいから」
今野「すみません。こっちの問題です」
実は日本一の高さを誇る氷川神社の鳥居
遠藤「この参道、さいたま新都心からずっと2km。日本一の長さです」
今野「そう言いますよね」
遠藤「参道には鳥居が3つあります。一の鳥居が川魚料理を出す「かのうやさん」のところ。二の鳥居が旧大宮図書館、今は(オレンジスクウェアもある)「Bibli」に変わりましたところ。そして、こちらが三の鳥居です」
今野「なるほど」
遠藤「物語があるのは、二の鳥居。檜の鳥居としては日本一の高さなんです」
今野「それって謳ってます?」
遠藤「いや、あまり謳ってません。実はいきさつがあって、この鳥居は昭和51年に氷川神社に寄贈されたもので、もともとは明治神宮にあったんです」
今野「へ~」
遠藤「ところが生木のまま建てていたので、昭和41年に雷が落ちて、これじゃ使えないとなったわけです」
今野「なるほど」
遠藤「樹齢1500年くらい。13mにもなる檜は日本中を探しても見つからなくて、結局、台湾の好意で新しい木を譲り受けたんです」
今野「そうだったんですね」
遠藤「氷川神社の鳥居はアルディージャのチームカラーでもあるオレンジに近い「朱」、うるしと水銀をまぜたものを塗っているので問題ない。そんなこんなでいただいた都合上、なかなか日本一の高さと謳いづらいわけです」
今野「そういうことか」
遠藤「しかも、こちらの方が1m高いんです。なんでかと言うと、明治神宮さんには袴の部分がないんです。どうぞ帰りに、じっくり見ていってください」
マネージャーさんが「平」を引き当てる
今野「大宮のサポーターは、よく来ますか?」
遠藤「……ここだけの話、ここ数年は相手チームのサポーターさんをよく見かけます」
今野「だからダメなのか(笑)」
遠藤「こちらの楼門は、さいたま市の象徴のような場所です」
今野「結構オレンジですね」
遠藤「実は、アルディージャのオレンジは、この門から採ったという説もあります」
今野「一説には、ですか。それにしても、たくさん人がいるなぁ」
遠藤「これでも、ずいぶん減ったほうです。三が日は200万人とも言われるほどの方々に来ていただきました。まず、神様にご挨拶しましょうか。参拝の仕方はわかりますか?」
今野「二礼、二拍手、一礼でしたっけ?」
遠藤「そうです!皆さん、ぜひアルディージャのJ2復帰を祈願してください」
今野「おみくじでも引きましょうか」
遠藤「何が出ました?」
今野「吉でした。いいことしか書いてない」
遠藤「大吉は、あまり入ってないです。吉も悪くないですよ。悪いことを書いてある方がいいじゃないですか?」
今野「そうですか?」
遠藤「いいことばっかりじゃ、全然ダメ。これは努力目標ですから。あとは、おみくじを結んでいく人がいますけど、年始に引いたものは、どうぞお持ちください」
今野「そうなんですね」
遠藤「それで、迷ったときに見るようにしていただけば」
今野「なるほど」
(今野さんのマネージャーが「平」を引き当てる)
遠藤「これです! うちの特徴と言いますか、波風が立たないフラットな状態を言います。私は「平」が一番いいと思っているんです。今年は元日にいきなり災害がありましたから、波風が立たないのは素晴らしいことです。大吉は沈むだけですから」
今野「あははは……」
遠藤「気をつけることなど、いいことも悪いことも書いてあるので、それを参考に」
今野「おみくじは、誰が書いてるんですか?」
遠藤「……さあて(笑)。易学を学んだ方、陰陽師みたいな方ですかね」
今野「ん?あれはなんだ」
遠藤「絵馬ですね。行ってみましょうか。普通は木の札で、そこに住所、名前、願い事などを書くのですが、悪い人もいるんですよ。だから、プライベートを守るために紙に書いて、袋に入れて下げるものを考えました。どうせならカラフルにしたほうがということで、神社としてもインスタ映えを狙っています」
今野「(笑)。時代ですねぇ」
遠藤「アルディージャのサポーターの皆さんは、ぜひオレンジの袋を下げていただければ」
今野「オレンジがちょっと少ないな」
遠藤「赤が勝ってますね……」
今野「確かに(笑)」
隠れた見どころスポットを巡る
遠藤「あとはどうしましょうか?」
今野「見るところは、いくらでもありますよね?」
遠藤「いやぁ、めちゃくちゃあります。それじゃ、湧水巡りでもしますか」
(神社内を移動)
今野「これは何ですか?」
遠藤「大宮公園には昔、料亭がいっぱいあったんですが、これは『八重垣』という料亭で松の木を生けていたという盆栽鉢です」
今野「え~、すごっ」
遠藤「氷川神社の御祭神であるスサノオノミコトは水の神様ですし、今年は辰年ですので、この龍の彫刻は縁がありますね」
今野「それにしても、遠藤さんはすごいですね。こんな何でもなさそうなところでも、すごい答えてくれますよね」
遠藤「それが仕事ですから(笑)。氷川神社の原点の場所に行きますか」
今野「どこですか?」
遠藤「蛇の池です。このあたりを掘ると、3000~5000年前の住居跡とか石器、土器など、いろいろ出てくるんです」
今野「へ~」
遠藤「古くから人々が住んでいた場所で、昔はもっと水が湧いていたんです」
今野「これ、湧き水ですか!」
遠藤「そうなんです。それで、この水は水路をつたって神池、白鳥の池に行き、そのままスタジアムの方へと流れているんです。その先は見沼と言うんですが……」
今野「はい」
遠藤「見沼は見る沼と書きますが、古くは御沼、もっと前は神沼と書いていたんですね。なんで神の沼かと言うと、その源泉がここだからです」
今野「そうなんですね」
遠藤「ちょっと濁って見えますが、水質は非常にいいんです。だから、綺麗な水があった大宮の名物は、実は『じゅんさい』だったんです」
今野「なんでしたっけ?」
遠藤「じゅんさいって、食べると美味しい水生植物です。今はもう秋田とか山形とか、水の綺麗なところでしか採れないんじゃないかな」
今野「へ~」
遠藤「江戸時代まで、氷川神社の贈り物はじゅんさいだったんです。あとは、綺麗な水の副産物としては、ホタルも出たんです」
今野「はぁ~」
遠藤「田山花袋という小説家が書いたエッセイの中に、『西は宇治、東は大宮』というくだりがあります。ただ、大宮のホタルのほうが大きくて光り方も鮮やか。だから、日本一のホタルは大宮のホタルだって」
今野「ふ~ん」
遠藤「戦後の宅地開発などで絶滅した大宮のホタルを復活させようと、今、有志の方々が頑張って活動されているところです」
今野「今なら戻せそうですね。これだけ見どころがあるの、みんな知ってます?」
遠藤「知らないと思います(笑)」
今野「このあたりにも、いろいろ神社があるんですね」
遠藤「こちらが宗像神社で、こちらが稲荷神社です。この鳥居は特に外国人の方に人気で、皆さんよく写真を撮られています」
今野「こちらは新しいんですか?」
遠藤「そうですね。あまり意識せず建てたんですが、人気スポットになっています」
今野「とにかく、見どころだらけですね」
遠藤「そうなんです」
今野「このあと、少し座ってお話聞いてもいいですか?」
遠藤「もちろん。お願いします」
※後編に続く。
構成:粕川哲男