【後編】レッドブルグループ・メディアツアーレポート 充実のハード面。これが強豪クラブのスタンダード

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回はレッドブルグループのメディアツアーレポート後編です。RBライプツィヒの充実したハード面と、クラブの象徴的選手であるデンマーク代表のポウルセン選手のインタビューを、オフィシャルライターの戸塚啓さんにレポートしていただきました。

【ライターコラム「春夏秋橙」】戸塚 啓
レッドブルグループ・メディアツアーレポート 後編
充実のハード面。これが強豪クラブのスタンダード


4万人以上を収容するレッドブル・アレーナ

レッドブルによるドイツ・ライプツィヒへのメディアツアーでは、RBライプツィヒのホームゲームを観戦することができた。12月15日に行なわれたアイントラハト・フランクフルトとの上位対決である。

4万人強の観衆が詰めかけた一戦は、RBライプツィヒが2-1で勝利した。ベルギー代表FWロイス・オペンダ、スロベニア代表FWベンヤミン・シェシュコのゴールが、サポーターを熱狂させた。

この試合前にはスタジアムツアーが行なわれた。スタジアムのあらゆる施設を見学し、ピッチサイドに立つことを許された。

レッドブル・アレーナは、収容人数が二つ記されている。国内リーグは47,800人で、国際試合は45,228人なのだ。ブンデスリーガでは立ち見のゴール裏が、チャンピオンズリーグでは着席になるからだ。国際基準を満たすことで、『UEFA EURO2024』の開催地に選ばれている。

スタジアムには3つのファンショップがある。観客の動線を考えて、およそ6割の観客が通る場所にメインのショップが設置されている。試合日には11基のコンテナでもグッズを販売する。

スタジアム内のファンショップの年間売り上げは、およそ600万ユーロだ。日本円で約9億8000万円である。J2の下位チームの年間の売上げを、グッズ収入だけで稼ぎ出す計算である。

観客目線で見た日本のスタジアムや陸上競技場との違いは、コンコースの広さだろう。フードスポットの周辺に十分なスペースが確保されているので、行列ができても通行に支障が生じない。時間帯によっては混雑するが、飲食にストレスが伴わないのだ。キックオフの1時間以上前に入場して、スタジアムグルメを楽しむ観客も見受けられた。

レッドブル・アレーナは、収益モデルとしても興味深い。

最上位のスポンサーにはメインスタンドに個室が用意され、内装は独自にカスタマイズできる。ホテルのバンケットルームのような空間もあり、試合前から試合後までリラックスした時間を過ごせる。提供される飲食はもちろん無料だ。

このバンケットルームでは、1,000人規模のイベントが可能となっている。試合日以外にもスタジアムを稼働させ、収益を上げているのだ。

スポンサーのカテゴリーによって、提供されるサービスは異なる。ただ、どのカテゴリーでもビールやワイン、フィンガーフードからパスタや肉料理が用意されていた。ドイツならではのホットワインは、冬場のナイトゲーム観戦の心強い味方だろう。

プロ野球北海道日本ハムが本拠地とする『エスコンフィールドHOKKAIDO』は、北海道ボールパークFビレッジの一部を成す。また、V・ファーレン長崎のホームスタジアムとして10月に稼働した『PEACE STADIUM』は、ホテル、アリーナ、ショップなどから構成される巨大複合施設『長崎スタジアムシティ』の一部だ。

試合日以外にも施設を利用してもらうことで、クラブは収益を上げることができ、新たな顧客の獲得にもつながる。レッドブル・アレーナもまさにそういった施設と言うことができる。

すべてが「使う者の目線」に基づいた設計

そのレッドブル・アレーナと、川を挟んで向き合うのが『RB-Training Center Cottaweg』だ。2011年に誕生したもので、増設を繰り返して現在に至っている。UEFA EURO2024では、出場国のベースキャンプ地の一つとなった。現在もなお、新たな施設が建設されている。

トップチームとアカデミーのクラブハウスを備え、アカデミーの選手用に50部屋の寮を備えている。現在は女子チームも利用しているが、来年3月に女子は別の施設へ移ることが決まっている。

クラブハウスは中央に体育館と食堂があり、それによってトップチームとアカデミーのエリア分けがなされている。屋内はガラス張りの空間が多く、アカデミーのトレーニングルームからトップチームのトレーニングルームが見える。「目ざすべき場所」が、可視化されているのだ。

ユニークな取り組みとして、VRの活用がある。

主に15、16歳の選手に用意されたプログラムで、瞬時の判断を身に付けることに役立てられている。体を激しく動かすことはないので、ケガをしていても判断力を養うくことができる。

もう一つは、ムーブAIを使ったゲームだ。

こちらはプログラミングされたトレーニングセッションの中から、「白いゴールに何回ボールを蹴ることができるか」、「表示されたものと同じ画像にボールを当てる」などのミッションを選択し、決められた時間内でトライする。ゴールのサイズを変えたり、スタジアムの音声を再現したりなど、様々なシチュエーションを作り出すことができる。素早い判断と技術を、観に付けることに役立つ。

グラウンドは天然芝と人工芝が9つある。

スタンドのついたグラウンドもあり、U-19や女子サッカー・ブンデスリーガの公式戦が行なわれることもある。取材用のバックパネルがグラウンドの入り口脇にあり、フラッシュインタビューに対応できる。クラブハウス内には、40人~50人ほどが着席できる記者会見場がある。ムービーカメラ用のスペースも確保されている。Jリーグのスタジアムの記者会見場と比べても、まったく見劣りしない。

トップチームが練習で使用するグラウンドの一部には、ロールスクリーンがある。普段は巻き取られているが、スクリーンを下げれば非公開練習ができるのだ。

施設内のすべてが「使う者の目線」に基づいており、合理的かつ機能的だ。さらに言えば、掃除が行き届いている。

ブラジルのレッドブル・ブラガンチーノのクラブハウスも、最先端のクラブハウスと8つのグラウンドを備える。ニューヨーク・レッドブルズも、8つのグラウンドと補完的なトレーニングエリアを備えたMLS最高基準の複合施設を建設中だ(2025年秋にオープン予定)。

レッドブルのグローバルネットワークの仲間入りしたRB大宮アルディージャは、ハード面でも変貌を遂げていくのかもしれない。

クラブの象徴が語るRBライプツィヒの哲学

クラブハウスの施設を見学したメディアツアーには、ユスフ・ポウルセンへのインタビューも用意されていた。デンマーク代表としてW杯やEUROに出場してきたこの30歳は、2013年に当時3部だったRBライプツィヒに加入した。

「僕がこのチームに来たときは、今僕らがいるこの建物すらなかったんだ。スタッフも100人ぐらいだったけれど、明後日には600人のスタッフを集めたクリスマスディナーが催される。それぐらい大きな規模になったんだ。スタジアムに集まってくれるお客さんも、僕がここへ来た当時は1万人ぐらいだったけれど、今は4万人以上収容のスタジアムが満員になるからね。ピッチ内だけではなく、ピッチ外での成功を見ることができているのは、すごく誇れることだと思う」

2016-17シーズンのブンデスリーガ昇格後は、2017-18シーズンを除いてトップ5入りしている。DFBポカールと呼ばれるドイツカップでは、2021-22、2022-23シーズンに連覇を達成した。

RBライプツィヒの成功を支える哲学とは、どのようなものなのか。ポウルセンは「つねに高みを目ざすこと」と語る。それこそは、レッドブルのグローバルネットワークに共通する価値である。

「他のチームに選手を引き抜かれたり、出ていったりしても、もう一度新しくチームを作り直して、さらに良くしていくというプロセスを何回も繰り返していきた。それが、つねに高いゴールを設定して、つねに高みを目ざすことにつながっていく。そのプロセスもすごく楽しい」

12月現在のポウルセンは、ハムストリングの負傷で戦線離脱をしていた。「リハビリはもう最終段階で、1月には復帰できると思う」と語る。レッドブル・アレーナの熱狂が、経験豊富なストライカーを待っている。

「ホームのファンの前でプレーするのは、表現できないぐらいにゾクゾクするというか、ワクワクする。自分にとってとても特別なその感覚が味わえるのは、デンマーク代表の試合とRBライプツィヒだけ。ここでプレーするのは、何物にも変えられない経験だね」

RBライプツィヒのサポーターにとって、ポウルセンはアイドルであり、リーダーであり、アイコンである。彼が他のクラブのユニフォームを着るのは想像しにくいが、レッドブルのグローバルネットワークなら、RB大宮アルディージャならどうだろう──。

ポウルセンは「ハハハハハ」と声を出して笑った。

「僕は自分のキャリアがどうなるのかを、あらかじめ計画したことがないので。行かないとは言えないし、行けたらいいね」

行き先を決める第一条件は、「レベルの高いリーグで、強いチームでプレーする」ことだ。「行く準備はできているよ」とポウルセンは話し、「RB大宮がどんどんハイレベルに成長していくことを願っています」と笑顔で締めた。

レッドブルのグローバルネットワークの仲間入りをするということは、クラブとしての可能性を拡げることに他ならない。「つねに高みを目ざす」ことで、RB大宮アルディージャの未来が開けていくのだろう。


戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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