ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は2025シーズン始動日の練習を取材したオフィシャルライターの戸塚啓さんに、RB大宮アルディージャとして始めての練習の模様をレポートしてもらいました。
【ライターコラム「春夏秋橙」】戸塚 啓
新生・RB大宮アルディージャが始動。
2025シーズンへ高まる期待感
新シーズンへの決意
新しいシーズンが始まった。
1月6日、RB大宮アルディージャが始動した。グラウンド脇をファン・サポーターがびっしりと埋める中で、選手たちはフィジカルトレーニング中心のメニューに汗を流した。
クラブ在籍年数が最長の富山貴光は、濱田水輝、和田拓也と同じ90年生まれの34歳だ。フィールドプレーヤーでは、彼ら3人が最年長となる。
「今日は練習初日なので、新加入選手とあまり話ができていないんですけど、これからコミュニケーションをたくさん取って、みんなが『素の自分』を出せるように持っていけたらと思います」
練習後のファンサービスを待つファン・サポーターを見ると、富山は「今日は平日ですよね」と驚きの声を挙げた。周囲の期待は大きな熱となり、初日から選手たちを包んだ。
「平日でこれだけの人数ですからね。これを当たり前として受け止めるのではなく、やらなきゃいけないという気持ちで、しっかりとした結果を残したいなと思います」
浦上仁騎も「ありがたいですよね」と話す。
「やっぱりうれしいですし、ホントに感謝しています。RB大宮アルディージャになって、クラブが変化していく中で、これまでクラブを支えてくれた人たちが新シーズンを楽しみにしてくれていると思う。そういう人たちの期待に、しっかりと応えられえるようにしたいです」
クラブの体制は変わったが、ピッチに立つ気持ちは変わらない。浦上が続ける。
「RB大宮アルディージャになっても、ピッチでやるべきことは変わらない。僕たちはJ2へ戻ってきただけなので」
茂木も同じ言葉を口にする。
「2023年に19位でJ2からJ3へ降格して、そのときの立ち位置に戻っただけ。昨シーズンやってきたことは絶対に通用すると思う。徹さんがやることは変わらないので、自分たちも変わらずにやっていきたいです」
石川俊輝は「自分たちは這い上がっている途中」と表現する。昨シーズンから使い続けているフレーズだ。
「目標はもちろんJ1昇格です。そこを目指さないと、プロとしてどうなんだって思いますし。J1昇格を目指してやっていくんですけど、僕たちはホントにチャレンジャーです。どん底を味わったので、全員で上へ、上へと這い上がっていきたい」
激しさを増すチーム内競争
チームには特別指定選手や2種登録で在籍歴のある選手も含めて、9人の新加入選手が加わった。厳しいポジション争いが、繰り広げられていくだろう。
石川は「プロである以上は、毎年が勝負です」と、落ち着いた口調で語る。「言ってしまえば毎日が勝負なので、それはいつでも変わりません。競争に負けないようにやっていく」と、静かに闘志を燃やす。
浦上も鋭い眼差しを向ける。「オフの間も体は作ってきたので、ここからさらにコンディションを上げていきます」と意気込む。
「この世界に競争はつきもの。それに勝った者が先発の座をつかみ取れるので、そこはどんどんやっていかないといけない。しっかり自分をアピールしていきます」
市原吏音が定位置とするCBには、横浜FCからブラジル人のガブリエウが加わっている。U-20日本代表での活躍も期待される19歳は、高いレベルの競争を歓迎する。
「ガブリエウ選手から学ぶものは多いと思うので、彼だけじゃなくいろいろな選手から学べるものは学びつつ、 自分の良さも出していかなきゃいけない。まずは試合に出るためにしっかりとアピールして、数字にこだわりたい。失点数と個人の得点数、それからやっぱりチームの勝利です。ストレートでJ1へ上がりたい。そこは狙っています」
レッドブルサッカーは昨秋の段階で、2025年を新体制への移行期と位置づけ、3年から4年でJ1へ昇格するとの青写真を明かした。市原も「レッドブルは長期で考えてくれているのでは」と話しつつ、「自分はやっぱり1年でJ1へ上げたい」と野心を口にする。
「注目度も高いと思うので、その中で自分たちがどれだけできるのか、結果を残せるのか。それが自分たちに課せられている挑戦のような気がして。だから確実に結果を残さないといけない」
新10番の野心
期待の新戦力の一人も、自身を取り囲む記者たちに意欲を明かした。J1の京都サンガF.C.から完全移籍の豊川雄太だ。長澤監督にはJ2のファジアーノ岡山で師事しており、2017年以来となる指揮官との共闘がRB大宮入りの決め手となった。
「もう一回自分に厳しくというか、新たな地でやってやろうっていう気持ちが強かった」とも話す。背番号10をつけるのは、熊本県立大津高校在籍時以来だ。
「10番が空いていたので、何か特に強い思いみたいなのはないんですけど」と小さく笑みを浮かべ、自分なりの決意を言葉にする。
「10番のイメージを変えられたら、みたいな。うまい選手が着けますけど、泥臭くゴールに何度も何度も向かうみたいな、 そういう番号というか、大宮の10番ってそういうイメージなんだと思ってもらえるように、しっかりがんばりたいと思います」
一人ひとりの野心や決意、プロとしての矜持、さらには組織への忠誠心が折り重なり、チームを前進させる出力が大きくなっていく。
胸躍るシーズンが、いよいよ始まった。
戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。