ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回はオフィシャルライターの戸塚啓さんに、RB大宮アルディージャとしての船出となった2025シーズンの開幕戦についてレポートしてもらいました。
【ライターコラム「春夏秋橙」】戸塚 啓
クラブ史に刻まれた特別な1日
2度とない1日は、瑞々しい希望に満ちていた。
RB大宮アルディージャとして迎える初めてのシーズン、その開幕戦が2月15日にNACK5スタジアム大宮で行なわれた。大宮駅からスタジアムまでの商店街などで用いられるチームロゴは、すべて新調されていた。その道のりを歩くファン・サポーターの多くは、新しいユニフォームを着ている。
スタジアムの周りには、お馴染みのレッドブル・ミニが駆け抜けていた。そのレッドブル・ミニに先導されて、チームバスがスタジアム入りする。クラブカラーと雄牛がデザインされたチームバスは、インパクト抜群だ。
試合前からスタンドの熱は高まった。レッドブル・アスリートでフリースタイルサッカーのYu-riさんが華麗なパフォーマンスを披露し、キックオフ前の『ファーストピッチセレモニー』には最高のゲストが登場する。
レッドブルのグローバルサッカー部門で責任者を務めるユルゲン・クロップ氏が、大宮の原博実代表取締役社長兼ヘッドオブスポーツとともにピッチに姿を見せたのだ。試合球をセットするシンプルな役目でも、世界的名将の登場である。声援と拍手が降り注ぎ、無数のカメラとスマートフォンが向けられた。クロップ氏はメインスタンド最上段のVIPルームで、レッドブルサッカー・テクニカルダイレクターの元ドイツ代表FWマリオ・ゴメス氏らとともに、試合を観戦した。
変化が見受けられる場面が多い中で、継承も感じられた。クラブマスコットのアルディとミーヤが、試合前のコンコースで写真撮影に応じている。装いは少し変わっているものの、愛らしいキャラクターはRB大宮アルディージャでもクラブの大切な一部となっていくのだろう。
選手入場の際には、ゴール裏にビッグフラッグと鮮やかなコレオグラフィが現れた。チケットは追加販売分も含めて完売で、スタンドは13,418人の観衆で埋め尽くされている。ホーム開幕節の入場者数としては、クラブ史上最多の数字だ。
VIPエリアには、Jリーグの野々村芳和チェアマンの姿もあった。J1、J2、J3の好カードが全国各地で開催される中で、リーグのトップが訪れたところに、大宮がいかに期待され、注目を集めているのかが分かるはずだ。
メディアの注目も高い。この日は記者、カメラマンを合わせて80人強が取材に訪れた。熱気に満ちた記者控室には、リフレッシュメントの一つとしてレッドブルが用意されている。記者会見に臨む監督が着席するテーブルの端も、レッドブル冷蔵庫が設置されている。これはレッドブルのグローバルネットワークの基準の一つだ。RBライプツィヒのスタジアムとクラブハウスでは、記者会見場と記者控室にレッドブルが常備されている。
昨季4位のモンテディオ山形を迎えた一戦は、後半に動きを見せる。52分、左CKから濱田水輝がヘディングシュートを決める。66分に同点に追いつかれたものの、後半アディショナルタイムにドラマが訪れる。谷内田哲平の左CKから、浦上仁騎が競り合いを制してボールをプッシュする。相手GKが辛うじて触るが、藤井一志がすかさずプッシュした。
試合後の記者会見で、長澤徹監督は言った。それは、RBのグローバルネットワークの一員として、グローバルスタンダードのサッカーを見せていくとの決意表明と受け止めることができた。
「自分たちの立ち位置はしっかり決まっている。ボールを持ってポゼッションしまくるわけでもなく、どん引きしてカウンターを狙うわけでもない。我々は『RB』なので、ボールを奪いにいって、必要であれば早く攻めるし、必要であればしっかりボールを握るという『第3の立ち位置』をしっかり構築していく。自分たちのスタイルで、しっかり進んでいきたいと思います」
開幕戦ならではの興奮があった。RB大宮アルディージャとしての第一歩が刻まれた。ドラマティックな勝利があった──2025年の開幕戦は2度とない特別な1日として、クラブ史に刻まれるものとなった。
戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。