【インタビュー】藤井一志「勝つためにプレーすることがゴールへの一番の近道」

今回は、開幕3試合で4ゴールを決め、スタートダッシュに大きく貢献した藤井一志選手のインタビューをお届け。ゴールシーンやそれ以外のプレーを振り返ってもらいつつ、活躍の理由を探りました。

聞き手=粕川 哲男
取材日:3月5日

「勝つためにプレーすることがゴールへの一番の近道」


「だから頑張れた」。開幕戦、劇的決勝弾の背景

――3試合連続ヒーローともなると、試合のたびにたくさん話されているとは思いますが、あらためてよろしくお願いします。
「お願いします!」

――開幕から3試合連続で得点を決めて計4得点という結果を、どうとらえていますか?
「ストライカーとして点が取れているのは自信になりますし、気持ちよくプレーできている感覚はあります。ただ、試合を振り返ると、(開幕戦の)山形戦でGKに防がれた左足のシュートとか、(第2節の)甲府戦のクロスからのシュートとか、ほかにも決められるところはあったので、もっと決定率を上げなきゃいけないと思っています」

――昨季の終盤にケガをして、カテゴリーを一つ上げて臨んだ今季の開幕戦では先発出場を勝ち取れませんでした。激しいポジション争いの中、危機感はありましたか?
「もちろん、ありました。スタメンじゃなかったので、悔しい気持ちのほうが大きかったです。ただ、そういうことに気持ちが左右されているようじゃ、パッと試合に出たときに結果を残せないのも分かっていたので、心を整理して開幕戦に挑みました。前線の選手には絶対にチャンスがくると思って準備していましたし、マインドはしっかり作れていました」

――前向きだったのですね。
「自分の課題や長所は開幕前から把握できていましたし、日々のトレーニングから良いものを積み上げられていました。プレシーズンで誰よりも数字を残せていた自信もあったので、気持ちが下を向くことはありませんでした。試合の出方(開幕戦でファビアン・ゴンザレスのケガにより緊急出場)は考えていなかった形でしたけど、ラッソ(ゴンザレス)が目の前であれだけ走って、体を張って、守備をしてという姿を見せてくれていたので、燃えないわけにはいきませんでした。ラッソの頑張りがあったから、気持ちが乗った状態で試合に入れたんだと思います」

――開幕戦の決勝点は試合終了まで残り数秒のところでの得点でした。あそこで取り切れたのは、準備の賜物なんでしょうね。
「自分でCKを取ったのも意味があったと思います。これは完全に思い出話なんですが、高校選手権の都大会決勝は逆にラストワンプレーで得点を入れられて負けて、引退しました。プロになってからもずっと、『あの経験があってよかった』と言えるようになりたいと思っていたんです。サッカー人生で一番悔しい記憶があったから、あのときも最後まであきらめないでプレーできたし、その気持ちがゴールにつながったんだと勝手に思っています」

はい上がってきたからこその「強み」

――得点が取れている要因を、どう分析していますか?
「1回ミスをしても、それを気にせずゴール前にかかわっていけているところが大きいと思います。ミツさん(戸田光洋コーチ)の『ストライカーは1点取ればいい』という言葉を励みに、上のレベルで結果を残す選手の心のあり方を学ばせてもらっています。もちろん、ミスしないのが一番ですが、しても次に気持ちを切り替えて、どんどんチャレンジする。そういうプレーを続けているから、ああやってチャンスがこぼれてくるのかなって」

――以前はミスを引きずることが多かった?
「動くより考えるほうが先にきちゃっていました。いいプレーをしようと意識し過ぎるというか。今はミスのあとこそ守備のために走るとか、足を動かすように心がけています。そうやって動いていると、調子の良い悪いにかかわらず流れに乗り直せる。ボールをもらう前の準備とか相手との駆け引きとかに意識を向けることで、イージーミスの連続は減ったと感じています」

――自分なりの哲学やプライドがあると思いますが、助言を素直に聞けるんですね。
「みなさん、僕よりも絶対に多くの経験をしているので、そういう人たちの言葉は吸収して、自分なりにかみ砕いて、それをピッチの中で表現しようと考えています。僕は“はい上がってきた人間”というか…、高校で日本一になったわけでも、ユースでバリバリやっていたわけでもないので。東海大でも1年生のころは県リーグからのスタートでしたし。人の意見を吸収する力は、ある意味、僕の強みと言えるかもしれません」

変わったのは「動き出しと予測」

――(第3節・)熊本戦のあとに「スピードやフィジカルが上がったわけじゃなくて、動き出しと予測の部分が変わった」と言っていました。
「ミツさんは僕の特徴を分かってくれていて、『こういう引き出し方もあるよ』とか『相手と駆け引きしたほうが、より生きるよ』と言ってくれています。普段からそこを意識して、全員が集中力も強度も高い大宮の練習で通用すると、大きな自信につながるんです。この強度、このレベルで通用するなら、試合でも絶対に結果を残せると思えるんです」

――予測とか動き出しの変化は、ここまで取った4得点にも詰まっていますよね。熊本戦の1点目の直前の場面は、オフサイドラインを見ながら抜け出した感じですか?
「たぶん映像には映っていないと思いますけど、ギリギリのところで駆け引きしていました。基本、CBやボランチがフリーでボールを持ったら、何かしらアクションを起こすことはずっと意識しています。仮に自分のアクションが使われなくても、ほかの選手が受けられたらいいという思いで、繰り返し動くようにしています。パスが出てこないシーンもいっぱいありますけど、やり続けた結果がゴールにつながったんだと思います」

――体のキレや体幹の安定感など、コンディションの良さを感じます。
「僕は筋力やパワーなどフィジカルがあるほうだと思います。なので、前はどうしてもそこに頼ってプレーしちゃっていました。例えば、相手とガチャガチャとなったところを力でもっていくとか。でも、接触でのケガや無理をしたことによる肉離れがあったので、そこを見直して、筋力を効率よく発揮するために骨格を意識するようにしたんです。食事や睡眠にも気をつかって、動きやすい体を作るための運動も取り入れています。フィジカルでどうにかしようとせず、駆け引きで時間を作って、簡単にプレーして、本当に必要な場面でフィジカルに頼る。そういう意識に変えたので、余裕をもってプレーできるようになりました」

ゴール前に人数をかけていることの利点

――ここまでの4得点で一番意味があったと思うのは?
「やっぱり、開幕戦のゴールですね。点自体は超ごっつぁんですけど、ストライカーとして、取っているのと取っていないのとでは心の持ち様が全然違います。途中から出て、チームを勝たせるゴールを決めることができたから、今の好調があるんだと思います」


――藤井選手らしいゴールでした。
「相手よりも先に動く予測の部分と、執念(笑)。そこは誰にも負けたくないと思っているので。僕はラッソみたいに身長があってフィジカルが強いわけでも、(オリオラ・)サンデーみたいに身体能力やスピードがあるわけでもないので、予測の早さで勝負するしかない。ただ、僕自身、ゴールを呼び込む一番の要素は気持ちだと思っています」

――ここまで調子が良いと、ゴールの匂いを感じられるんじゃないですか?
「チームの状態はいいし、自分たちの攻撃の形があるので、ゴール前にいれば必ずシュートチャンスがくるという確信があります。決めるかどうかは僕の技術次第。今は人数をかけてゴール前に入っているので、僕たちは誰でも、どこからでも点が取れる。甲府戦のゴールは(杉本)健勇くんがニアでヘディングしてくれて、開幕戦の決勝点は(浦上)仁騎くんが足を出して触ってくれました」


――熊本戦の2得点はいかがですか?
「あの2ゴールは、ガブ(リエウ)とアルトゥール(・シルバ)が『決めてくれ』っていうようなラストパスを出してくれました。だから、チーム全体で取れているゴールで、たまたま僕が4得点を決められているだけという感じです」



――そうなんですね。
「大事なのは、今のペースで点が取れなくなったときに何ができるかです。僕がオトリになって誰かが取れれば、それでいい。チームのためにプレーすることを一番に考えていますし、自分が取れればいいとは思っていません。点以外のところでの働きはトヨくん(豊川雄太)とか健勇くんが示してくれていて、僕はまだまだだなって思うので、そういうところの質を上げていかなきゃいけないって、ずっと思っています」

ポストプレー時のちょっとした工夫

――長澤徹監督は藤井選手のことを「献身と犠牲の人間」と言っていて、得点以外の部分も評価しています。
「(リオネル・)メッシがいれば一人でゴールを取れますけど、そうじゃない。僕たちはチームのみんなで取るっていうサッカーをしています。徹さんがしっかり選手を見て、評価してくれているので、どういうプレーが重要なのかは全員が理解していますし、自信を持ってプレーできています」

――得点以外の部分で手ごたえを感じているのは?
「開幕戦で何度か成功したポストプレーですかね。センターFWはどうしてもロングボールを受けたり、ポストプレーをしたりする必要がある中で、身長の低い僕は(174cm)そういったプレーができないと思われがちですが、そこも相手との駆け引きを制して先にボールを引き出すとか、簡単にはたくとか、ファーストタッチでずらしてタメを作るとか、工夫しています。僕自身は初めてのJ2で通用するか不安がありましたけど、開幕戦である程度できたことで、やっていける自信がつきました」

――今後はマークもより厳しくなると思います。
「確かに、周りからの見られ方っていうのは、チームとしても個人としても変わってくると思います。ただ、僕が見ているのはもっと上のレベル、世界なので。マークがキツくなったから結果を残せなくなるようでは、上では通用しない。新たな技術、新たな駆け引きを身につける必要があるし、どこまで突き詰めても天井はない、成長する余地があると思っています。強い相手と駆け引きして、どうやってその鼻を折るか、楽しみながら成長していきたいですね」

「今がサッカー人生で一番楽しい」

――思い描いている少し先の目標を教えてください。
「年齢的にも、現実的にも、2030年のW杯に出たい、日本を勝たせたいって気持ちがあります。あとは、数年後に世界のビッグクラブでプレーすること。これはずっと言っていますが、プレミアリーグでプレーするのが小さいころからの憧れで、その思いは今も変わっていません。いつかプレミアのピッチに立つことが今の目標です」

――どこのチームが好きなんでしたっけ?
「チェルシーです。あっ…リバプールって言ったほうがよかったかな(笑)。(ユルゲン・)クロップさんが(練習場に)きたとき、さすがに言えなくて『リバプールの試合、めっちゃ見ています』って言いました」

――(第25節の)ブライトンvsチェルシーの三笘薫選手(ブライトン)のゴールはすごかったですね。
「いやあ、やられましたね(笑)」

――そっち目線か(笑)。とはいえ、今は目の前の練習、目の前の試合ですよね。
「はい。先ばっかり見ていてもしょうがないし、今やらなきゃいけないことがたくさんあるので。日頃からそういった意識を持ち続けています」

――これからもゴールへの期待が高まります。
「ファン・サポーターの方々もそれを期待してくださっていると思いますし、僕自身も考えています。だけど、勝つためにプレーすることが最優先です。それがゴールへの一番の近道だと思っているので。熊本戦のチーム1点目も、以前の僕だったらゴールが欲しくて健勇くんに出さずに自分で左足を振っていたと思うんです。そうじゃなくて、チームが勝つ確率、ゴールを奪える確率が高いほうを選択できた。パスの質は良くなかったですけど、瞬時にあの判断を下せたあたりは、少し成長しているかも、と思えます」

――去年、ホームで決めたのは1点だけでした(J3第19節・岩手戦)。
「そうなんですよ。今年もすでにホームで2点取っていますけど、両方ともアウェイサポーター側(のゴール)でしたし。やっぱり、全然違うんです。去年のホームでの初ゴール、ホームサポーター側で取って走っていったときの歓声とか、ファン・サポーターの皆さんが喜んでくれている姿は今でも鮮明に覚えています。あの瞬間をたくさん味わえたらいいですね」

――普段の練習からチーム全体の充実ぶりが伝わってくるので、試合が楽しみです。
「練習後には、やり切ったと言える選手が多いと思います。ベテランの(濱田)水輝くんとかトシくん(石川俊輝)が先頭に立って示してくれているので、自分たちがやらないわけにはいかないですし、全員が『成長したい』という気持ちで練習できているはず。僕自身、今がサッカー人生で一番楽しいし、すごく充実しています」



粕川 哲男(かすかわ てつお)
1995年に週刊サッカーダイジェスト編集部でアルバイトを始め、2002年まで日本代表などを担当。2002年秋にフリーランスとなり、スポーツ中心のライター兼エディターをしつつ書籍の構成なども務める。2005年からRB大宮アルディージャのオフィシャルライター。

FOLLOW US