山道守彦 強化部長に聞く! ~勝負の中断期間で巻き返しの準備を~

昨年11月、山道守彦 氏がフットボール本部強化部長(VENTUS)に就任しました。これまで浦和レッズ、V・ファーレン長崎、京都サンガF.C.、FC岐阜で強化や統括部門などを歴任してきたその経験のすべてをVENTUSへ注入すべく、トレーニンググランドで熱い視線を送っている山道強化部長の姿を頻繁に目にします。今シーズンのWEリーグ前半戦は苦しい戦いが続き、最下位に沈むVENTUSが破らなければならない壁、中断期間を経て突き進むべき道筋とは——。

—就任当初から積極的にグランドにも足を運び、チーム状況の把握をされていました。山道強化部長の目には現状がどのように映っているのでしょうか?
山道守彦フットボール本部強化部長(以下、山道) 僕は女子サッカーに詳しくはなく、勉強不足の面もあるので今は内外の情報を吸収しながらではありますが、いろいろな要素が重なって苦しい現状になっていると感じます。今シーズンからクラブの方針として、指導者を含め“若返り”が敢行されました。シーズン開幕後、株式譲渡により10月から新たにRB大宮株式会社としての運営が始まり(VENTUS体制はシーズン終了までは現行のまま)、その際に要職についていたスタッフの変更もあり…、VENTUSとしての方針変更で難しいシーズンに、複数の要因が重なってしまった結果であると思っています。

—年が明け、すでに始動していますが、3月のリーグ戦再開に向けてこの中断期間は重要ですね。
山道 巻き返しを狙うわれわれにとって8週間のインターバルは願ってもない長さです。ここでしっかりと立て直していかなければなりません。前半部分で新戦力を馴染ませ、トレーニングの質を上げて土台を作り直し、後半4週間ではトレーニングマッチを行う予定です。対戦相手、使用グランドなどを調整し、現在5試合を想定しています。実践は非常に重要ですから。

—これまでいろいろな要職を担っておられますが、立場的に立て直し、改善という厳しい状況を打開する役割であることも多いなか、最も大事にしている着眼点はありますか?
山道 僕はチームは家族と同じで土台が大事だと思ってるんですよ。ポイントは“安定”と“継続”。安定するために何を継続するか、何を継続すれば安定するかを考えていて、そこには経営やキャッシュ、バジェット(予算)があって、他にも育成、供給いろんな要素があります。VENTUSはそれらが混乱しているのでまず整理する必要があります。若返りは機能するまでに時間を要すものです。浦和時代もレディースが優勝するまでには時間がかかりました。その間に育成のサイクルが積み上がったのも安定材料の一つでした。そして財力もあって選手も取って来れる。サポーターも多く足を運んでくれる。安定のためのサイクルになっているんです。チームが強くなったらお客さんが増えて、お金が増えて、それをバジェットしていい選手にあてて、それを繰り返してアジアを獲る。正のスパイラルがスピードを増すとどんどん回り出すんですよ。一方、われわれは今、正のスパイラルを回せる状況にない。一丁目一番地として何をするか、極力安定させるためには軸となり得る選手を少し入れる必要があると感じました。

—始動までに強化指定選手としてすでに試合出場も果たしていた東洋大学の落合依和 選手(MF)、皇后杯では対戦相手だったヴィアマテラス宮崎から齊藤夕眞 選手(FW)、上海農商銀行(中国)から髙橋美紀 選手(MF)、三菱重工浦和レッズレディースから期限付きでの西尾葉音 選手(FW)の加入、ですね。
山道 成功するにも失敗するにも必ず理由があります。このギブンコンディションで何ができるか、ベストは無理でもなんとかベターな方法を探っていく中で、気になるのは2点しか取れていない現状でした。パワーのある選手を今のチームに加えて馴染ませて、チーム内で激しい競争を生む環境にしなければ強化にはつながらないと思っています。

—まだVENTUSとしての色を見出せていない状態ではありますが、山道強化部長はどのポイントが色になっていくと感じますか?
山道 みんな勤勉ですよ。女性アスリートは陸上でも出産して30歳を超えて第一線でバリバリ活躍している選手もいますし、サッカー界でも30歳から伸びる選手がたくさんいます。まだまだここから十分成長できるんです。どんな色にでもなれる。アカデミーの茂木未宙 選手、佐藤百音 選手といったいい選手もいます。彼女たちのモチベーションを上げつつ、アカデミーの充実も図っていくつもりです。

—目下の目標はチームの立て直しというところではあると思いますが、もう少し先を見たとき、どのようなビジョンを考えていますか?
山道 VENTUSは来シーズンの7月から本格的にRB体制になるということでその時点で流れが変わることも考えられますが、やはりやるからには上を目指さなければプロではありません。Jリーグもそうですが、本来のあるべき姿は地域に愛されて強いチームになることです。チームが一体となって信じあってやり続けることが大事なんです。チームが強くて、サポーターが多くて、スタジアムがワンダーランドで、ファシリティがしっかりしてて、真心クラブだったら、いい選手は必ず集まります。今のVENTUSにこのうちの何があるか…、となればまずは上に立つものが明るく一生懸命に引っ張っていく姿を見せ続けること。それができなければこの立場を引き受ける資格はないと思ってます。

—後期へ向けて、今VENTUSに必要なものはなんでしょう?
山道 サッカーで一番よくないものは“ネガティブ”、“恐れる気持ち”です。今は点を取られたら勝てないというマインドになってしまっていますが、映像を見返すと前を向ける場面は多々ある。相手はウチと真逆のマインドで来るからイケイケドンドンな訳です。でもそこは恐れずに下げずにつなぐことをトレーニングから刷り込んで、恐れる気持ちを払拭する必要がありますね。皇后杯で負けた試合は、残念ながら宮崎の方が走ってたじゃないですか。サッカーは走ることと戦うこと、規律を守ることが大切。走るところで勝ててない、奪い所で勝ててない、やることはみんなバラバラだったら…、勝てないんです。走ることと球際は絶対に負けてはいけない。どのチームでも言われていることです。ここまで来たら失うものは何もないので、選手は思い切ってプレーしてほしいです。そして前半戦に苦しい想いをさせてしまったファン・サポーターの皆さんに希望を持ってもらえるような、笑顔になってもらえるようなチームになって、後半戦を迎えられるよう、そう変えていくために最大限の努力をしていきます。


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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