サイドをえぐってのクロス、前線へのキラーパス—。小さい頃からアシストの喜びを知っていた鈴木日奈子 選手。それでも一番はやっぱりゴール! ビルドアップに時間が割けていない今シーズンのVENTUSにおいて、より悔しさを募らせているのはひょっとしたら彼女かもしれません。加入後のシーズン初ゴールはファン・サポーターへの名刺代わり。そこへかける鈴木選手の熱い想いが紡がれたVENTUS PRESSです。
Vol.64 文・写真=早草 紀子
——幼い頃、サッカー以外のスポーツにも触れていたのでしょうか?
小学1年からサッカーを始めましたが、3歳から小学2年までは水泳もやってました。水泳はバタフライができなさ過ぎて辞めたんですよね。
—え! ?小学2年なら筋肉的にもバタフライがまだできなくてもいいんじゃないですか?
そうなのかな?小学2年の私にはその考えはなかったな~(笑)。
—ストイックなのか否か…。サッカーには水泳でいうところの“バタフライ”的な壁はなかったんですか?
リフティング! 夏休みに100回できるようにしようみたいな宿題を出されたことがあって、夜までずーっとやってました。母からも「もっとリズムに乗らないと! 」みたいな指示が出るほどリズム感がなくて…。でもやり遂げました(笑)!
—鈴木選手のアシスト好きはもうこの頃から芽吹いてたのでしょうか?
いや…、自覚したのは大学くらいからです。なんかクロス上げたらバンバン決めてくれるのが気持ちよかったんです(笑)。クロスの練習もしてたし、スルーパスの練習もしてたし、昔から決めさせるプレーが好きなんです。そりゃ自分で決めるのが一番ワクワクしますけど!
—そのアシストへの目覚めが鈴木選手のターニングポイントですか?
というより、考えることが習慣化された大学時代ですね。指導スタイル的に自分たちでどう判断していくかっていう指導だったので、そこでもうすっごい怒られるんですよ。それが嫌だからって訳じゃないんですけど、ここではこういう意識が大事なんだ、こういう判断でやっとかないとこうなるんだっていうのを指摘され続けて、いろんなことが理解できてきました。サッカーだけでなく生きていく上ですごく大事なことだと思ってます。
—その成長を実感できた瞬間はありました?
2年生の練習試合のときに中盤ですごいいプレーばっかりできたときがあったんです。絶対にボールは奪われないし、ゾーンに入った感じ。そのときにこういうことか、って感じました。おかげさまで今もポジショニング取るのとか好きだし、大学時代に教えてもらったことをつねに考えながらやってます。
—戦うステージがWEリーグとなって、一番違いを感じるのはどんなところですか?
技術とかはもちろんですけど、一番はメンタルだと思います。ちゃんと“自分”を持ってる人が多いですよね。VENTUSで言うと(杉澤)海星とかは特に感じます。しっかりしてる! 私はそこまでアスリート気質な大学時代ではなかったんです。同期でサッカーを続けているのは私だけですし…。だからよりそう感じるのかもしれません。でも同期は本当に普通の感覚の人たちなので、私をアスリートではなく一人の人間として接してくれるので、私が期待を背負うこともなく、助かってます(笑)。
—加入後のシーズン、これまではアウェイチームとして立っていたNACK5スタジアム大宮をホームとする立場でピッチにも立ちました。やはり違うものですか?
これは自分自身の問題なんですけど…、そこに立っただけじゃサポーターの皆さんにもまだ認められてもらえないと思っていて。結果を出して初めて一員だと認めてもらえる。だからそれはアシストではなくて、ゴールじゃないとダメなんです。第一歩はみんなの前でゴールを決めて勝つ! これしかないと思ってます。
—チームとしては、そのゴール自体が少ない厳しい前半戦になりました。ふり返ってみていかがですか?
個人的には決められるシーンがめちゃめちゃあって、そこを落としてる。けっこう引きずるタイプなので目を閉じるとそのシーンが出てきちゃったりすることもあります(苦笑)。不完全燃焼…。もっとこうしとけばよかったっていうのがすごくある。でもそこをずっと引きずってるのも良くないので、それを糧にしないといけないとか、とにかく思考がグルグルしてました。
—一番悔しかったのは?
アウェイのマイナビ仙台レディース戦で、イノさん(井上綾香)からパスが来て、ニアにシュートを打ったらGKに取られてそのまま足をつったシーンです…。
—オチまで含めて、しっかり記憶されてるんですね(苦笑)。
今でも鮮明に思い出せます。あれを決めてたら勝点3あって、チーム状況も少しは変わったかもしれないなって…。でも、今選手たちでいろいろ話して、変えなきゃいけない! っていう流れになってるんです。実際厳しく求め合って、要求し合うところは変わってきてると思う。変化を起こすのが遅かったというのは絶対にあるけど、勝ち続けてるチームにはないものがある。やり続けること、やり通すことを突き詰めていけば必ず変われる。もっと戦わないといけないって自分自身が思える環境はVENTUSを選んでよかったと思えてます。後半戦に向けてここがターニングポイントだったと思えるように取り組んでいきたいです。
—苦しいときだからこそ、ご自身の新しいプレーを引き出せそうですか?
突破のところ。1対1のところはチームとしても必要です。本来、私はそういうタイプではないんですけど、でもそれも武器として身につけることがチームとしても大切だと思います。
—対戦相手から見て、“じゃない方”を選択できるのは強みですよね。
本当にそう思います。そのためにも大事なのはポジショニング! 自分たちのボールを持っている時間をどれだけ増やせるか。攻撃は最大の守備と言われているように、ボールを持つ時間を長くしていくことで自分だけでなく、周りを生かしながら戦えるはずです。
—中段明けの鈴木選手のプレーを楽しみにしてます。
前半戦の苦しさがあって、みんなと乗り越えたから変われた、変われたから決められたというゴールが欲しいんです。とにかく点を取りたい! 私は推進力のところと、周りとの連係の部分を買ってもらっていると思っているので、そこを生かして、最後には自分のところで仕留める! そういうプレーをみなさんにNACK5スタジアム大宮で見せられるように中断期間、磨いていきます!
早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。